News and Views 2014 Autumn / Vol. 11: オートモーティブ

車載ネットワークCANとは

CANはController Area Networkの略称で、車載アプリケーションを構成する各システムやセンサを接続する手法として、旧来使われていた複数ワイヤによる構成方法を置き換えるべく開発されたシリアルバスのプロトコルです。CANは1986年のSAE World Congressで公式にリリースされ、その後2008年には、米国で販売される自動車に対してCANを使用することが求められました。CANの開発にあたっては、車載のマイクロコントローラやデバイスが、ホストコンピュータを介さずに通信することができることが念頭に置かれています。コンポーネント間通信にはシングルまたはデュアルワイヤのネットワークデータバスを用い、最大で1Mbpsまでの通信が可能です。

図1. 車載アプリケーションに対して柔軟性を実現するCANバス図1. 車載アプリケーションに対して柔軟性を実現するCANバス

ホストコンピュータを介さないマイクロコントローラやデバイスの通信とは、車載アプリケーションとしての柔軟性を高めることを意味します。自動車は購入時に実にさまざまなオプションを選択して組合せることができ、また購入後に標準オプションを追加装備することも可能です。そのようなビジネスモデルを考慮した場合、各オプションを構成するECUや電装部品に対して、例えばアドレッシングなどによる管理は不向きと言えます。CANプロトコルでは、どのデバイスもバスのマスタになり得ます。バス衝突が発生した際には、各メッセージに含まれる優先順位に基づいて調停が行われる仕組みになっています。

自動車に搭載される複数のネットワーク

CANはさまざまな車載アプリケーションで使用されています。(図2)

  • パワートレイン系
  • 車両制御系
  • ボディ制御系
  • 情報系(カーナビなどに求められる高速通信を除く)

図2. さまざまなアプリケーションで使用されるCANネットワーク図2. さまざまなアプリケーションで使用されるCANネットワーク

SAEは、通信速度に基づいて車載ネットワークのクラスを分類しています。

  • Class A
    ライト、室内灯、パワーウィンドウ、パワーシート、電動格納ミラー、キーレスエントリー、ドアロックなど、故障診断を伴わないアプリケーション。イベントドリブンのメッセージ伝送をサポートし、通信のビットレートは10Kbpsまで。
  • Class B
    走行表示装置、電子メータなど故障診断を伴うアプリケーション。イベントドリブンのメッセージおよび周期的なメッセージ伝送、スリープ/ウェイクアップをサポートし、通信のビットレートは10Kbps~125Kbps。
  • Class C
    エンジン制御、燃料供給制御、ABSなどのブレーキ制御、ATなど走行に関わるリアルタイム性が求められるアプリケーション。リアルタイムの周期的なメッセージおよびパラメータ伝送をサポートし、通信ビットレートは125Kbps~1Mbps。
  • Class D
    カーナビ、インフォテイメント、インフォテイメント連動のインスツルメントクラスタなどのアプリケーション。通常は5Mbps以上を要するため、CANでは対応しない。

CANはClass A~Class Cまで対応可能ですが、通信に際してはネットワークに接続する電装部品やECUの数や規模に応じた速度をあらかじめ決めて使用します。異なる通信速度を1つのネットワーク内で混合させることはできません。

ネットワークの通信構造

CANネットワークも国際標準化機構(ISO)が定めたOSI階層モデルを使用しています。つまり第一層から順に物理層、データリンク層、ネットワーク層、トランスポート層、セッション層、プレゼンテーション層、そしてアプリケーション層から構成されます。このうちデータリンク層および物理層に対しては標準規格があり、ISO11898(1Mbpsまでの高速通信)およびISO11519-2(125Kbpsまでの低速通信)がそれに該当します。
通信速度はバスケーブルの長さによっても、ネットワーク上の電装部品の点数によっても変わってきます。そして自動車の装備仕様として使用される電装部品は、標準仕様かオプション仕様かに応じてバリアントが発生します。さらに、ケーブルの長さや部品点数だけでなく、ケーブルやコネクタなどの電気的な特性や終端抵抗も含めてシグナルインテグリティを検討する必要があります。

CAN物理層の解析とシミュレーション

IEEE 1076.1標準のVHDL-AMSを用いると、アナログ、デジタルおよびミックスシグナルの振舞いをモデル化した上でシミュレーションすることが可能となることから、CAN物理層の検証言語として広く使用されています。CANトランシーバ、ツイストペアの伝送線、コネクタなどから構成されるネットワークに対し、スタティック解析やダイナミックなシミュレーション、ネットワークトポロジにおける中間ノードのスタブ長とデータ伝送遅延の特性解析、伝送線路の配線損失解析、信号波の終端検討、バスの電磁干渉特性、静電気放電に対するTVS – 過渡電圧サプレッサによる電圧抑制の保護効果の評価などを実行できます。図3はCAN物理層のネットワークのスケマティックモデルです。

図3. CAN SI解析を行うためのスケマティックモデル図3. CAN SI解析を行うためのスケマティックモデル

CANネットワーク設計における大きな課題は、電装部品の装備仕様に対してすべての組合せの試作を行うことができず、結果として各電装部品の推奨用途やネットワークのコンフィギュレーションのガイドラインを遵守しようとするあまりに、重量やコスト、レイアウト制約に対して慎重過ぎる設計を招いてしまうことです。
メンター・グラフィックスでは、CANの物理層試験の課題を解決するソリューションとして、SystemVision(SV)のマルチドメインシミュレーション機能を活用したSV CAN Network SIを提供しています。この環境では、Microsoft Excelベースでネットワーク設計を入力し、データや通信シーケンスのさまざまなコンフィギュレーションを網羅し、システムパラメータをスイープさせて複数のシミュレーションを実行し、設計のトレードオフを解析することができます。すべての組合せの試作が不可能な状況に対してパラメータとネットワーク性能の依存関係を明らかにすることにより、試作でテストするバリアントの要点を洗い出すことができるとともに、最もコスト効率の高いバスのコンフィギュレーションや、中間ノードのスタブ長の最適化を図ることが可能になります。

まとめ

CANネットワークは、さまざまな車載アプリケーションで使用されています。自動車におけるオプション仕様の多様化によって電装部品の実装仕様が多様化しており、そのすべての組合せに対して試作で評価することは現実的ではありません。
これに対し、モデリングとシミュレーションの技術をベースに、信号特性評価、パラメトリック解析、電磁干渉評価などを可能な限りコンピュータ上で行うことで、安全かつ競争力のある車載アプリケーションの開発が実現できるようになります。

CANバス物理層のさまざまな解析をしてみた実験結果はこちら

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