News and Views 2015 Spring / Vol. 13: ものづくり

新製品導入(NPI)のベストプラクティスで市場競争を勝ち抜く

はじめに

この10年の間、プリント基板(PCB)設計と製造は、あらゆる領域において進化を遂げてきました。従来型の電子機器製造フローでは、設計と製造の間にコミュニケーションの障壁があり、その壁を飛び越える形で設計データのやり取りがなされていました。一方、高度で「無駄のない」新製品導入(NPI)—以降、リーンNPIと呼びます—メソドロジを採用すると、設計/製造に携わる複数の企業で必要とされる機能を最大限まで共通化し、相互連携のチャンスを最大化できるようになります。

市場での競争激化を受け、Time-to-Marketの短縮、コストの削減、品質の改善などが無視できないほど大きなプレッシャーとなっている現在、設計段階から製造段階に移行する際のNPIは、最も重要なプロセスと言えます。

図1. エレクトロニクス業界の目標ランキングトップ3(出典: Aberdeen Group, 2010年)図1. エレクトロニクス業界の目標ランキングトップ3
(出典: Aberdeen Group, 2010年)

ここで、米国の調査会社であるAberdeen Group(アバディーングループ)の調査結果から、エレクトロニクス業界における企業のビジネス目標(図1)を見てみましょう。多くの企業が、新製品導入を成功させるために以下3 つの目標を掲げています。

  • Time-to-Marketの短縮: 新製品の早期市場投入により競合他社に勝つ
  • 製品コストの削減: 市場シェアを伸ばすアグレッシブな価格設定と、高いマージン設定による利益の確保
  • 製品品質の改善: 巨額のコストがかかる市場での不良削減

製品の成功を左右するNPI

製品の成功を決定するのは、CADツールからの出力時ではなく、製品の市場投入時です(図2)。設計企業は、このプロセスで遅延と総コストを最小限に抑えるとともに、製造企業の柔軟性を最大限に引き出さなければなりません。理想的なNPIフローの実施は容易なことではないかもしれませんが、自社フローの見直しと改善によってベストプラクティスに近づける必要があります。

図2. 製品の成功は、設計完了時ではなく製品の市場投入時に決まる図2. 製品の成功は、設計完了時ではなく製品の市場投入時に決まる

リーンNPIフローのベストプラクティスは、設計の早い段階から実際の製造上の制約を考慮した製品設計(製造性考慮設計: DFM)を行うことにより、新製品のTime-to-Marketを短縮するというアプローチにあります。これは、設計から製造までのデータが共通化されることの少なかった従来フローとは異なり、PCB設計段階から製造段階までの各段階をより密接に連携させる一気通貫型フローです。メンター・グラフィックスが提供するPCB設計/製造ソフトウェアは、リーンNPIフローを効果的にサポートしています。フロー内でのコミュニケーションを円滑化するとともに、設計、基板製造、実装の各段階で実施されていたデータ再構築作業も不要にし、設計のリスピンや手戻りを最小限に抑えます。

図3. PCB設計ツールとNPIツールのシームレスな連携がリーンNPIフローを実現(図はXpedition PCB LayoutとValor NPI)図3. PCB設計ツールとNPIツールのシームレスな連携がリーンNPIフローを実現(図はXpedition PCB LayoutとValor NPI)

この新しいDFMフローに求められるのは、PCB製造/実装のあらゆる要件に設計を確実に適合させることです。しかし、業界特有の多様性を考えた場合、これは容易なことではありません。製造工場に関してだけでも、しっかりと統制されたオペレーションから経験と勘に頼ったオペレーション、さらにその両者を異なる配合で組み合わせたさまざまなパターンが存在します。製造規模を見ても、単価わずか数セントという製品を数千万単位で製造する企業から数百万ドルもする衛星制御装置を1つ製造する企業まで非常に多岐にわたります。また電子機器業界と言っても、家電、産業機器、通信、自動車、航空宇宙、軍事など、その分野は広範に及び、コスト、品質、柔軟性、納期のいずれを重視するかも企業ごとに異なります。設計コンセプトから製造、さらに最終的な収益獲得までを導くNPIプロセスは、電子機器関連の製品開発には欠かすことのできない標準的な共通要素であり、誰がどこで何を製造してもその中核が変わることはありません。

今回のものづくりトピックでは、2つの製品市場投入シナリオを取り上げてそれぞれの手法を比較した上で、リーンNPIフローへの移行と新しい手法で何が達成できるのかを見ていきましょう。ここで紹介する事例は実在する企業のものではありませんが、それぞれが属す業界を代表する典型例とお考えください。電子機器製造業界に携わる企業の大半が、両社のどちらかに近い状況と考えられます。主要産業であるかニッチ産業であるかにかかわらず、どの企業もリーンNPIメソドロジと関連ツールの導入を通じて同様の効果を得ることが可能です。

2つのシナリオ - 2つの企業概要

1つ目のシナリオに登場するのは、ヨーロッパの通信分野を代表する大手OEMです。社名は、仮に「ABCエレクトロニクス」としましょう。ABCエレクトロニクスは企業理念として、ブランドイメージ、品質、技術を重視しており、製造工場を世界各地に構えています。製品バリエーションの増加やリードタイムの短縮、厳しいコスト意識の下、世界的な技術進歩に伴いますます柔軟な対応が求められ、結果的に、社内オペレーションに多大なプレッシャーがかかっています。また、安価な技術力を求める市場ニーズを受け、競合企業の新規参入も目立ってきました。

ABCエレクトロニクスの経営陣は、社内オペレーションの現状を見直してNPI段階の生産能力を倍増させ、全体的なコスト削減を図りたいと考えました。そこで、不要な重複作業を洗い出して排除し、膨大な製造コストにつながる一見偶発的に見える人為ミスを可能な限り削減する取り組みを始めました。

もう片方のシナリオでは、ニッチマーケットの一角をなす軍需産業の受託製造業者(EMS)を取り上げます。社名を「XYZエレクトロニクス」としましょう。この企業の製造拠点は米国カリフォルニア州の1拠点のみです。極めて妥当な期間と適正なコストで最高の品質を生み出すことを誇りにしているこの企業の理念は、積極果敢に競合他社からビジネスチャンスを勝ち取り、顧客との強力な関係を長期にわたって築くことです。また、迅速な対応も重視しており、現実的な価格や納入スケジュールを迅速に顧客に提示することで信頼を築いています。しかし、こうしたビジネスの進め方を可能にするには、プロセスエンジニアが設計上のあらゆる問題を的確に特定しなければならず、その見落としは製造品質の低下や事業収益の損失につながるため、多大なプレッシャーを受けています。

2社における従来のNPIフロー

ABCエレクトロニクスにはすでに定着しているNPIフローがあり、重視するのは品質、コスト、信頼性、性能です。まず、製品の電気的/機械的な要求仕様を満たす設計図を作成し、続いて部材の選択を含めて基板のレイアウトを行います。製造チームは設計上の問題が製造コストを著しく増大させていると主張していますが、製造面をいかに最適化できるかどうかも大きな課題です。

ABCエレクトロニクスは、垂直統合型の企業ではあるものの、設計部門と製造部門が元々物理的に離れており、製造工程のタイミングと設計サイクルとが合っていませんでした。このことが、設計と製造との円滑なコミュニケーションを阻んでいます。PCBレイアウト設計者は、自身の担当分野については精通していますが、製造の知識や経験はありません。設計者の評価は、設計の性能と納期遵守率で決まります。設計レイアウトツールの標準設計ルールは、適切と考えられる設計方針の一般的な検討事項をチェックしてその結果を設計者に示すだけで、製造要件はチェックしません。

これとは対照的に、XYZエレクトロニクスではNPIプロセス自体が明確化されていませんでした。ここでのプロセスは、まず顧客データが入った1本のUSBメモリを営業担当者が持ち込むところから始まります。しかし、このデータの中で実際に使えるものはごく僅かなため、顧客に対して延々と質問を投げかける作業が続きます。機密保持契約を交わしていても、顧客は自社製品に関する詳細情報の開示を躊躇しがちです。経験豊富なNPIエンジニアがいたとしても、製品の概要と製造方法を推定して仮説のテストを繰り返すだけです。NPIエンジニアが解釈しなくてはならないデータには、製品の基板を作るためのGerberファイル、部品リストの入ったファイル、単純なBOM(部品表)があります。場合によっては、配置位置の情報がファイルに含まれることもあります。また、CADツールのネイティブ形式でデータを受け取ることもあり、さまざまな形式のデータを扱うため、その後複数の装置で工程準備が可能なようにいくつかの形式にデータを変換しなければなりません。いくつもの異なる情報をすべてまとめなければならないため、膨大な作業も必要となります。

XYZエレクトロニクスの営業チームは高い契約獲得率を誇っていますが、エンジニアリングチームはNPIの度に製造向け作業データの作成に多くの時間を費やしています。予期せぬ問題が発生しても顧客側に対応を依頼する時にはすでに遅すぎることがほとんどであるため、何か問題が起きたらすぐに対処ができるように製造オペレータの余剰人員を確保しています。

新しいNPIフロー導入のきっかけ

ABCエレクトロニクスでは、株主向けの報告書の中で、市場で競争力を維持するためには一層の効率化が必要であることが報告されました。そこで、完成品在庫を減らした柔軟な供給体制を求める顧客に応えるため、製造拠点を顧客サイトにより近い場所に移し、さらなる製造の最適化を開始しました。拠点単位で製造プロセスが変更されると、NPIにかかる手間も増えてしまいます。新製品を導入する場合に不慣れな製品の製造をいきなり求められても、製造エンジニアは柔軟性を持って要求に対応できません。また現在は、製造上の理由で設計をやり直す時間的な余裕もありません。そのため、設計チームの手を離れる前に、さまざまな製造要件を考慮しながら初回から成功する設計を完成させる必要があり、その実現に向けて新しいリーンNPIフローを実現するツールが選ばれることになりました。

XYZエレクトロニクスの場合は、会社を危機的な状況に追い込んだある単純なミスがきっかけでした。取扱いに細心の注意を要する某重要顧客製品の製造判断を誤ったために、製品に対する信頼性問題を引き起こしてしまったのです。問題が発覚したのは広範にわたる寿命テストの後でした。単純なエラーが見過ごされてしまったことと、重大な不良につながるリスクを抱えたまま多くの製品がこれまで製造されてきたことを、経営陣は非常に憂慮しました。顧客に協力を仰がねばならない事態と出荷後の製品のテスト、改修にかかるコストを見れば、製造オペレーションに重大な弱点があることは明らかです。顧客の信頼を取り戻すには、エンジニアリングデータを管理し、チームの問題解決能力を高め、経験則に依る作業を完全に排除しなければなりません。リーンNPIメソドロジと新しいツールの導入が必須となりました。

リーンNPIメソドロジ

図4. ODB++を用いたリーンNPIフローが、PCBの設計、製造、実装チーム間の円滑で効率の良いコミュニケーションを実現図4. ODB++を用いたリーンNPIフローが、PCBの設計、製造、実装チーム間の円滑で効率の良いコミュニケーションを実現
図5. Valor MSSで、製造ラインに必要なすべてのプログラム、データ、ドキュメントを設定図5. Valor MSSで、製造ラインに必要なすべてのプログラム、データ、ドキュメントを設定

ABCエレクトロニクスの設計者は、メンター・グラフィックスのXpedition PCB Layoutと同製品に統合されたValor NPIをPCB設計作業に採用しました。これらのツールを組み合わせると、設計ツール環境内でDFM解析を実行し、設計の改善可能性を探ることが可能になります。マウスで2、3回クリックするだけで、製造の問題につながりそうな箇所を修正できます。中央のプロセスエンジニアリングチームが世界各地の拠点の意見を汲み上げてDFMルールを改良し設計者にフィードバックできるようになったことにより、設計者はこれまでよりも生産的になったと感じ、チーム全体の満足度も高くなりました。

ABCエレクトロニクスの新しいリーンNPIフローでは、PCBの製造と実装の両方を担当する中央のプロセスエンジニアリングチームが単一のODB++(オープンデータベースによるCAD/CAM間データ交換形式)ファイルを使用します。このODB++ファイルはPCBの設計段階から生成され、認定済み部品モデルなど、製造に必要なすべての情報が含まれています。認定済みの部品モデルとライブラリ情報が揃っていれば、製造拠点で独自に準備するものはほぼありません。その後、プランニングチームが製造効率を最適化できるように、工場の装置とラインの構成に対する割り振りまでを行います。オペレーションのシミュレーション結果に基づきプログラム、データ、ドキュメントが生成されて実装工程に送られるため、ラインの試験操業とエラー発生によるダウンタイムを事実上ゼロにできます。

XYZエレクトロニクスでは、リーンNPIメソドロジの導入以降、受注時に顧客から受け取ったデータはすべてそのままValor NPIソフトウェアに読み込ませています。営業チームは、顧客との関係性を生かし、ODB++ファイル形式によるデータの受け渡しを顧客に依頼するようになりました。ODB++ファイルは設計ツールから簡単に出力できます。今日では、データのすべてをValor NPIで自動解析し、製造に影響しそうな箇所を検出しています。問題は個別に数値化され、最も正確でリスクのないオペレーションとなるように全体的な製造工程を作り上げています。これにより、製造チームだけでは対処の難しい問題が早い段階で見つかるようになり、その問題を顧客にフィードバックすることによって、設計改良の協力を仰ぐことができます。製造ラインを立ち上げた後には、初回から正しく生産するために必要な作業はほとんどありません。Valor NPIで生成したODB++ファイルをValor MSSに送り、製造ラインに必要なすべてのプログラム、データ、ドキュメントを設定できます(図5)。

最良のリーンNPIメソドロジ導入の成果

ABCエレクトロニクスは、今や世界のどこでもこれまで以上に迅速に新製品を製造できるようになりました。中央のプロセスエンジニアリングチームは、出荷する新製品の数量や品種の変動にもより適切に対応できます。顧客のニーズ、製造能力、効率性に合わせて製品をある拠点から別の拠点に移す場合も問題ありません。また拠点間の生産能力差が解消されたので、品質も向上し、複数拠点で展開するオペレーションのコストや遅延が激減しました。以前に比べてはるかに統制力が増し、高い柔軟性を実現できるようになりました。

XYZエレクトロニクスは、事業も急成長し、統制と管理の行き届いた環境において競争力のある価格設定で新しい顧客開拓に励んでいます。メーカーと顧客の協力体制により、メーカーは製造上の問題につながるリスクの低減、顧客は設計品質の向上という恩恵を受けられるようになりました。

最大限の共通化による設計と製造間連携を実現

図6. Valor NPIにより設計から製造までのDFMルールを共通化図6. Valor NPIにより設計から製造までのDFMルールを共通化

Xpedition Enterprise、Valor NPI、InCAM、Valor MSSを必要な領域すべてに展開したリーンNPIメソドロジによるベストプラクティスは、電子機器製造業界のすべての企業に有効な手法です。これを標準プラットフォーム化することで、ビジネスチャンスが広がり、設計と製造のコミュニケーションが強化され、相互協力を通じて成功へとつながります。

2社の事例はいずれも、ソフトウェアツールの力で設計/製造フローを大幅に改善し、高い成果を生み出しました。Valor NPIは、設計と製造ではそれぞれ異なる役割を果たしています。Xpedition EnterpriseのPCB設計環境の一部として組み込むことで設計プロセスを強化できると同時に、製造引渡し前に設計の製造性を検証/認定できます。また製造段階にValor NPIを導入すると、設計の認証や、製造リスクを抑えるための判断が可能になります。仮にユーザが変わっても、同じ操作性と同じ結果を得られます。

垂直統合型のOEMや設計と製造が別会社の形態を採るEMSのどちらにおいても、設計と製造の両方の業務において効果的にValor NPIを活用しDFMルールを共通化することで、設計と製造のコラボレーションがこれまで以上に容易になります(図6)。従来の協業フローにおいては、共有可能な範囲は最小限に留まってしまいましたが、リーンNPIメソドロジを採用すると、機能と機会を最大限共有できるようになります。信頼性の高い迅速なNPIフローでは、無駄やエラーのない製品を製造して市場に投入できるため、大幅なコスト削減と品質向上を実現でき、ビジネスを成功に導きます。