News and Views 2016 Summer / Vol. 18: ものづくり

メカトロニクスの設計コラボレーションを実現するIDXの活用

電子機器に搭載される機能は指数関数的に増大し続け、その製品設計も比例して複雑化が進んでいます。消費者ニーズに応える製品の設計には、電気や機械といった複数ドメインの設計コラボレーションが求められます。また今日の製品設計環境を考える場合、単一の開発拠点ですべてが完了するということは滅多になく、海を越え、国を越えて分散する設計チームが協力し合いながら共同作業で開発されていることからも、電気機械(メカトロニクス)システム開発にかかわる多くの設計者やエンジニア間のコミュニケーションが大きな課題となっています。

付箋やメール頼りの電気機械設計のやり取りをいつまで続ければいいの?

多くの企業が、電気システムと機械システム間のデータ交換にIDF(Intermediate Data Format)を使用しています。IDFは、メンター・グラフィックスが1992年に開発、公開した電気設計と機械設計ドメイン間の設計データ交換を実現する非プロプライエタリのデータ形式で、リリース後すぐに各社に採用され、事実上の業界標準となりました。しかし、IDFは設計データベース全体を静的に転送するため、インポートしたファイルを見ただけでは「どこで何が変更されたか」を特定しづらいといった欠点がありました。

このため電気ドメインと機械ドメインの間のコラボレーションを促進するには至らず(典型的にはプロジェクトの冒頭と最後だけで実現)、設計工程には情報のギャップが発生しました。また、IDFを使用する際には、設計の変更内容を確実に伝え漏れが出ないようにするために、マークを入れたPDFやPPTを添付した文書を作成してEメールで別途やり取りを交わすといった作業も必要でした。情報のギャップが原因で電気/機械設計チームの設計意図が正しく伝わらず、製品問題が発生してしまうこともありました。

さて、今日のメカトロニクス設計の工程には、さまざまな問題を引き起こす可能性のある課題が数多くありますが、大きく考えると次の2つに分類されます。

  • コンポーネントと機械のクリアランスが不明確なため発生する衝突
  • 電気設計データと機械設計データの同期

繰り返しになりますが、従来型の手法では、設計者はEメールのやり取りを通して相手方設計者の真の設計意図を確認しなければなりませんでした。このプロセスは手間がかかるうえに、コミュニケーションの狭間でデータが失われたり長期にわたって設計者間の情報交換が欠如したりすることもありました。このため違反が続発し、下流工程では問題が発生しました。設計者は、なんとか設計要件を満たして最終サインオフするようにと設計のやり直しに膨大な時間を費やしていました。

このような背景を受け、2010年、メンター・グラフィックスは、ProSTEP iVIP Associationにおいてプロジェクトグループを発足し、今日の電気/機械コラボレーションの課題を解決する新しい独立のデータ交換規格となるIDXを開発しました。

図1. IDFからIDXへ。設計データ交換規格の変遷図1. IDFからIDXへ。設計データ交換規格の変遷

IDX使用のメリット

ProSTEPプロトコルであるIDXは、どんな機械設計ツールスイートであっても、どんな電気設計ツールスイートであっても、同じ言語でコミュニケーションを取ることができ、同時にそれぞれのツールがネイティブな環境で情報を解釈できる環境非依存のフォーマットです。IDXを導入すると、使い慣れた設計環境を離れることなく電気フローと機械フローを緊密に同期できます。新規ツールの習得が不要で、設計者は、設計工程を通して何度でも他の設計ドメインと簡単にコラボレーションを図り、真の設計意図を伝え合い、いつでも機械とコンポーネントのクリアランスを確認できます。

この新しい通信プロトコルの目的は、電気設計者と機械設計者がいつでもどんな頻度でもコミュニケーションを取り、変更を提案し合えるようにすることです。プロトコル自体も簡素化されており、IDFとは異なり、データベース全体ではなく交換されたアイテムのみを表示するようになっています。そのため2つの設計ドメインが同期され、設計工程の非常に初期段階から問題を特定できます。

メカトロニクスシステム設計には、電気ドメインと機械ドメインの両方に影響する問題を引き起こしかねない課題があります。時代遅れの技術で妥協することは得策ではありません。IDXを使うと、設計初期に問題を特定できるので「設計工程の終盤になってから問題が見つかり設計をやり直す」といった状況に陥ることがなく、その代わりに浮いた時間を新しいプロジェクトに費やすことができます。

電気ドメインと機械ドメインの間のコラボレーションを定義

IDXは設計コラボレーションを実現させる強力な技術です。この規格を用いたドメイン間の同期を成功させるには、どの情報が設計フロー内で交換されるのかを定義する必要があります。設計フローを定義することは効率的な工程を実現するうえで不可欠です。この作業に多少の時間をかけるだけで、重複するステップを解消し、プロジェクトを通して正確なデータを交換、実行できるようになります。

大半のメカトロニクスシステム開発プロジェクトでは、最初に機械エンジニアが重要な設計制約(基板外形、マウンティングホール位置、配置/配線禁止領域、コネクタ配置など)を定義します。その後、設計要件と基板要素を電気設計者と交換し、正確なデータを用いてプロジェクトを開始できるようにします。

図2. IDXを用いたデータ交換ワークフロー図2. IDXを用いたデータ交換ワークフロー

最初に交換するのは「基本」ファイルです。IDXにおける基本ファイルは機械ドメインのアセンブリデータベース全体を含むのでIDFと同じように感じますが、似ているのはこの点だけです。IDXを使うと、単一の静的ファイルを交換できるだけでなく、各ドメインでインクリメンタルに発生する設計変更データ(最初に基本ファイルを交換した後は設計変更が行われた部分のデータのみ)を交換できます。

さらに、差分レポートを送信する、変更内容のコメントを直接IDXファイルに記入する、PCBや機械アセンブリの変更内容をグラフィックで精査して受理(または拒否)するなどの機能もあるため、設計ドメイン間のデータフローの精度と一貫性が向上します。こうしたプロセスにより緊密なコラボレーションが進み、設計フローの初期に重大な問題を特定できるようになります。

以下のステップは、IDXを使用した標準的なワークフローです。

  • 機械設計者が、既存ハードウェアに実装するアセンブリのPCBを設計
  • IDX基本ファイルを電気設計者に向けてエクスポート
  • 電気設計側で基本ファイルが受理され、電気と機械双方のデータベースが同期
  • 電気設計者は、基本ファイルが受理されたことを知らせる応答ファイルを機械設計者に送信
  • 機械系(または電気系)設計ツール内で基板設計データが修正されると、提案(増分)ファイルを他方のツールに送信
  • 電気(または機械)設計者は変更内容をレビューし、提案を受理(または拒否)する応答ファイルを返信
  • 応答ファイルを受け取った設計者はこれを受理。以降このプロセスの繰り返し

このようにデータ交換ワークフローを定義して実行すると、手遅れになる前にメカトロニクスの問題を特定し、設計時間やコストを効率化できるだけでなく、それにより得られた時間を活用し、他のプロジェクトに費やすことができるようになります。

技術文献『メカトロニクス設計のコラボレーションを最適化』(英語)の中で、メンター・グラフィックスのXpeditionとPTC Creoを用いた成功事例をご紹介しています。ぜひ、ご一読ください。