News and Views 2007 Autumn

[FEATURE-2] Analog/Mixed Signal Design

先端LSI設計における信頼性のシミュレーション

NECエレクトロニクス株式会社

袖美樹子様(システムASIC事業部)
村井正宣様(SoC信頼性品質管理部)
関口亨様(アドバンストASIC事業部)
加藤一郎様(先端デバイス開発部)
横川慎二様(先端デバイス開発部)

はじめに

コンシューマ向けエレクトロニクス機器メーカーが直面する課題の一つに、LSI回路が製品の耐用期間を通じて正しく動作するかどうかの問題があります。近年、CMOS技術はディープ サブミクロン領域に入り、新たな信頼性上の課題が生じています。NBTI(負バイアス温度不安定性)はナノスケールのPMOSトランジスタにおいて、信頼性に対する主要な懸念点です。さらに、ナノスケールのNMOSトランジスタにおいてはHCI(ホットキャリア注入)が主要な信頼性上の問題となっています。本稿では、弊社がトランジスタの劣化に対する一連の予測モデル、ならびにHCIやNBTIを含む代表的なシリコン固有の損耗メカニズムに対応した故障等価回路モデルを開発した手法について解説します。これらの課題に対し、新しいSPICE信頼性シミュレーション手法を提案し、その実験結果の一部をここに紹介します。

HCLとNBTI

LSIのチップサイズ縮小に伴い、MOSFETのスケーリングも進み、供給電源電圧も5Vから3.3V、2.5V、1.8V、1Vと変化してきています。しかしながら、世代を追ってスケーリングされる定電圧はシステムに様々な問題をもたらし、MOSFETの電界強度が高まる結果を招いています。トランジスタ特性の経年劣化はこのような高いエネルギーを受ける電子や正孔に対しても懸念点となりました。HCIとNBTIの問題は、経年劣化のメカニズムとしてよく知られています。 HCI劣化はMOSFETにおいてしきい値電圧(Vt)の変化、トランスコンダクタンス(Gm)の劣化、ドレイン電流(Id)の劣化として表れます。チャネル電子はそのエネルギーをチャネルの水平方向電界から受け、ホットキャリアとなります。ホットキャリアがシリコン(Si)サブストレートとゲート酸化膜間の既存の電流ポテンシャル壁を上回るエネルギーを得ると、ホットキャリアはゲート酸化膜に注入されます。これはチャネル ホット エレクトロン注入と呼ばれます(図1)。

図1: チャネル ホット エレクトロン注入の概念図図1: チャネル ホット エレクトロン注入の概念図

チャネル キャリアはドレイン近傍の電界の増大によって加速され、電離衝突やなだれ増加が起こり、電子-正孔対が発生します。これらの電子や正孔の一部はゲート酸化膜に注入されます。この現象はドレイン アバランシュ ホットキャリア注入と呼ばれるもので(図2)、通常の動作温度範囲内では最悪のデバイス劣化をもたらすと言われています。

図2: ドレイン アバランシュ ホットキャリア注入の概念図図2: ドレイン アバランシュ ホットキャリア注入の概念図

pMOSFETのNBTIは、ゲートとドレインが高温環境下でバイアスに追加された時に起こるトランジスタ劣化の一つです。これは近年特に問題となっている現象です。このプロセスについて簡単に説明します。ゲート酸化膜とシリコン基板間の負バイアス応力により、界面トラップが形成されます。さらに、水素あるいは水素関連の反応生成物がゲート酸化膜内に広がり、電荷がとらえられることで固定電荷が増大します。

実デバイスでの劣化後の動作を予測するため、一般的な電圧条件、温度条件、チャネル長等の条件に対応する経年劣化を表現した数値計算式モデルを開発しました。パルス応力による劣化の仕組みも回路動作と同じく、劣化予測モデルの精度に対する議論が最近活発に行われています。さらに、劣化予測式を使った信頼性シミュレーションについても研究を行いました。本項では、NECにおいて開発された信頼性シミュレーション環境について説明します。

信頼性シミュレーション

信頼性シミュレーションは、HCIやNBTIによる経年劣化をSPICEシミュレータを使って調査するものです。その目的は、製品が最初に使われ始めてから保証期限まで、正しい回路動作を保証することにあります。この信頼性シミュレーションではいくつかの条件を考慮しました。まず、劣化の影響は個別のトランジスタそれぞれにおいて異なっているため、均一な劣化モデルで推定することができません。我々はトランジスタの劣化を個別のトランジスタそれぞれの動作によって予測し、また数十年後の波形を確認する必要がありました。「10年後、クロック波形パターンが劣化するとすれば、どの程度劣化するのか?」または、「長い期間が経過した後でもクロックは正しくフリップフロップをトグルすることができるか?」などの問いに答えることができなければなりません。これには回路が正しく動作していることを立証する機能が必要です。また、最も劣化の激しいトランジスタを特定できること、最後に重要な条件として、自社独自の劣化モデルを使って検査できる必要がありました。汎用の劣化モデルでは、我々が期待する劣化推定を行うことができなかったからです

我々はいくつかのSPICEシミュレーションからこれらの機能条件を満たすものを探し、メンター・グラフィックスのEldoシミュレータを採用することに決定しました。Eldoシミュレーションを採用した主な理由は、弊社独自の劣化モデルを使うことが可能だったためです。

図4: リングオシレータの回路図と信頼性シミュレーションの結果図4: リングオシレータの回路図と信頼性シミュレーションの結果

図4はリングオシレータ回路に対する信頼性シミュレーション結果の例です。テストの目的から、劣化率は意図的に高く設定しています。その結果、劣化前、劣化後の波形を得られることが簡単に確認できました。このリングオシレータの例では、発振周波数は約3GHzから約2GHzまで劣化しました。信頼性シミュレーションを実行することで、以下の効果が期待できます。

  • 結果を波形として確認できるため、結果が満足のいくものであるか視覚的にチェックできる。
  • 各トランジスタの劣化は、各トランジスタの動作の違いとして考慮することができる。そのため、現実に近い結果を得ることが可能。
  • どのトランジスタの劣化が進んでいるか特定が可能であり、そのため回路変更・調整が簡単。