News and Views 2015 Autumn / Vol. 15: オートモーティブ

KSK – モジュール型のワイヤ・ハーネス設計/製造

はじめに

車両1台を1つのプラットフォームとみなした場合、自動車のワイヤ・ハーネスはプラットフォーム全体のシステム接続の機能を担うため、自動車の開発工程において最後に設計され、最初に車に搭載される電気部品となります。また、納車時期を左右しかねない極めてクリティカルな要素でもあります。ワイヤ・ハーネスの実装は、ほぼ手作業で行われるため、人件費を含めた高精度のコスト見積もりが求められます。さらに自動車購入時のオプションの選択肢が多様化することで、電装構成の組合せ数は爆発的に増大したことから、それを接続するワイヤ・ハーネス部品の適切な管理がなされない場合、部品管理、製造工程管理、品質管理、市場投入後の整備や整備マニュアルといったすべての領域において破綻をきたしかねません。

自動車OEMメーカーは、競争上の優位性を高める上でも、顧客の選択肢の幅は狭めたくない一方で、ワイヤ・ハーネス部品開発における人件費やさまざまな管理費などのコストを総合的に抑えなくてはならず、このギャップがジレンマとなります。

部品のコンポジット化とトレードオフ

ワイヤ・ハーネスの設計では、部品をコンポジット化させ、集合配線図に基づいて組み立てる方法が一般的になってきました。コンピュータ上の設計ツールを用いて集合配線図から複数の派生ハーネスを自動生成させる手法は、自動車業界では当たり前になっています。これはワイヤ・ハーネスの複雑度をいかに管理するかという課題に対する1つの解です。

設計者は、コンピュータ上の設計ツールを用いて1つのスーパーセットとしての作り込みを行い、正しいハーネス品番を個別に付与します。設計データの生成とエンジニアリングは自動化され、マスタのハーネスと、それに付随する派生ハーネスを網羅するBOMを完成させることができます。1度だけデータを入力すれば済むので、NPI(新製品導入)や設計変更時のTAT短縮につながります。またルールベースで自動計算されるため、製造可能な部品それぞれのコストを正確に見積もることが可能です。当然、この手法は品番数が管理可能な範囲に収まることを前提としており、そのためには多少のデメリットも出てきます。

図1. 装備標準化と付け捨てにより電装構成の複雑化を抑える図1. 装備標準化と付け捨てにより電装構成の複雑化を抑える

図1.は自動車購入時のオプション選択肢と電装構成、つまり電装部品を接続するためのワイヤ・ハーネスの品番数について表現したものです。1つの車両プラットフォームに、右ハンドルと左ハンドルの構成があります。それぞれの構成に対し、ABS(アンチロックブレーキ)を装備するか、装備しないかのオプション選択肢があります。さらにフォグランプを装備するかしないかのオプション選択肢があります。このようにオプションが1つ増えるごとに電装構成の種類が増え、3つのオプションがあるだけで23 = 8通りにもなることが分かります。

例えば、この電装構成を満たすワイヤ・ハーネスの品番数を減らすために、右ハンドル車ではABSを標準装備とすると、組合せ数を8から6へと減らすことができますが、購入時の選択肢は狭まります。さらに右ハンドル車では、フォグランプのオプションを購入してもしなくても、フォグランプへのワイヤ・ハーネスは配線まで終わらせて実際には接続しない「付け捨て」を選択すると、組合せ数を5まで減らすことができます。ただしこの場合、付け捨てる部品のコストがかかるだけでなく、車重、ひいては燃費にまで影響を及ぼします。

モジュール設計による管理容易化

図 2. モジュール型ワイヤ・ハーネスの設計アプローチ図 2. モジュール型ワイヤ・ハーネスの設計アプローチ

最近では、特にドイツを中心に、ワイヤ・ハーネスの構成や開発プロセスに「モジュール設計」を取り入れる自動車OEMメーカーとサプライヤが増えつつあります。この手法は、「Customer Specific Harness: 顧客別仕様ハーネス」をドイツ語で表現した時の頭文字をとり「KSK」とも呼ばれています。「機能モジュール」とその対になる「技術モジュール」を合わせたコンセプトは、サプライチェーンの至るところで注目を集めています。製造分野では、「生産モジュール」を用いることで製造プロセスの効率化とコストメリットを実現できます。

集合配線図に基づく設計手法では、コンポジットであるマスタハーネスから、その派生ハーネス部品へと分解して完成品とします。しかしモジュール設計では、組み上げることを想定したサブアセンブリ(モジュール)にあらかじめ分解しておき、これを組合せて特定の構成へと仕上げるため、付け捨てを限りなく抑制できます。

図2.は、モジュール設計の概念を示したものです。Module-1、Module-2、Module-3という半完成品(サブアセンブリ)から構成して完成品とするため、モジュール同士の関係性を保つ情報と工程が必要になります。Module-2とModule-3は終端処理が施されていますが、Module-1のコネクタに割当てられています。つまり、Module-1はコア要素として存在し、Module-2やModule-3の配線先となります。

ここで、モジュール設計における特徴的な工程について見てみましょう。まず、モジュールのコードと関係を定義します。ここで、排他条件、包含条件なども表現します。例えば、オーディオシステムのモジュールは、購入時のオプションであるサブウーファまで接続するモジュールに包含される機能として指定します。次に、マスタハーネスを構成する各ディスクリートワイヤにモジュールコードを割当てます。すべての部材 — コネクタ、絶縁材、補助キャビティ部品(端子、シール、プラグなど)を該当するモジュールコードに割当てます。

さらに、機能モジュールとは別に、技術モジュールを定義します。例えば、複数の機能モジュールに属するワイヤを接続したスプライスを表現するには、最終アセンブリを表現できるように技術モジュールを定義し、それに関する追加部材を割り当てます。この技術モジュールの大きなメリットは、コストや組立て時間の精度の高い見積もりができることです。

最新設計ツールによる自動化

図 3. モジュール型ワイヤ・ハーネスの自動合成と車両トポロジ図 3. モジュール型ワイヤ・ハーネスの自動合成と車両トポロジ

モジュール設計は、集合配線に基づいた設計手法よりも複雑度が増すと思うかも知れません。スプレッドシートを用いて管理しようとすれば、確かに今まで以上に複雑になるでしょう。しかし、ESD(電装システム設計)を自動化するツールでは、設計段階でモジュールコードを簡単に定義し、部材を機能モジュールに割り当て、機能モジュールと技術モジュールの関連性を定義し、製造モジュールへと連携させることは極めて簡単です。

図3.は、車両のトポロジ情報と自動合成されたモジュールを重ねて表示したものです。この工程の開始時には、各ワイヤがどの機能をサポートするか、機能同士の関係はどうなっているのか、などがすでに既知の状態となっています。ツールによって、ワイヤ、スプライスなどの内容とハーネスがマッピングされ、全モジュールコードが合成されます。

まとめ

自動車OEMメーカーとワイヤ・ハーネスのサプライヤは、常に設計や製造の工程、総合的なコストを含む複雑さに直面しています。モジュール型のアプローチは考え方自体も複雑であり、とてもスプレッドシートなどでは対応できません。しかし、ドイツを中心にその採用が進んでいる背景には、電装設計に特化した強力な自動化ツールの採用があります。メンター・グラフィックスが提供するCapitalは、集合配線のアプローチにも、モジュール型のアプローチにも対応する最先端の設計プラットフォームです。このような強力な自動化ツールを活用することで、付け捨てなどの妥協を最小限に抑えつつ、自動車のエンドユーザが求めるオプションの選択肢を維持できます。