News and Views 2015 Autumn / Vol. 15: IC設計&製造

IoTデバイスに向けた半導体開発とマーケティング戦略の重要性

はじめに

IoT(Internet of Things、モノのインターネット)は第4次産業革命とも言われ、電力消費量や環境問題を始め、高齢化が進む日本における高度医療やヘルスケア対策など、さまざまな課題をIoT技術によって解決していこうとする動きが世界規模で始まっています。文字通り、膨大な数のモノをインターネットにつなげるためには、半導体の存在が不可欠であり、半導体ビジネスの大きな牽引役としての期待も集まっています。

IoTの端末デバイスは、センサ回路で取得したデータをマイクロプロセッサにより有益情報へと処理し、主にRFを介してインターネットに接続します。電子部品メーカーがデバイスの使途を予め想定したリファレンスデザインを構築し、続々とモジュールを市場投入するだろうとも予測されています。

IoTデバイス構成とICのマーケティング戦略

一般的なIoTデバイスの設計は、図1.にあるように、単数ないし複数のセンサやMEMS、センサのアナログ信号処理、A/D変換、I2Cのようなデジタルインタフェースから構成されます。従来はUSB経由でPCに接続していましたが、無線接続が大半を占めるようになり、Wi-Fi、Bluetooth、ZigBee、カスタムプロトコルなど、RF通信が接続の主役となります。

図1. 一般的なIoT設計の機能ブロック図1. 一般的なIoT設計の機能ブロック

このようなブロック構成から、どの部分をシングルチップにするかという観点で設計を考察した場合、主に2つのグループに大別されます。「無線/マイクロコントローラを中心に集約させる」グループと「センサを中心に集約させる」グループです。

まず、無線、マイクロコントローラ、A/D変換器を単一ICに集約させるケースについて見てみます。このケースでは、IoTはもちろん、それ以外の用途に使えるよう汎用性を高めることが1つのポイントになります。回路規模が大きくなるため90nm以降の微細プロセスを使用し、低電圧、低消費電力を実現しますが、微細なプロセスではコストが上がることからコストと生産量のバランスが重要となり、汎用性の高いICにする必要性が出てくるためです。例えば、Nordic SemiconductorのnRF51シリーズは、BLE(Bluetooth Low Energy)無線規格を採用し、マイクロコントローラとしてCortex-M0を統合しています。マイクロコントローラや規格化された無線通信の市場は成熟しており、IPや部品が豊富に揃っていることから、これらを購入する方が製品コストを抑えられる傾向にあります。

一方で、センサを中心に単一ICへと集約させる場合、A/D変換器やデジタルインタフェースを追加するなどの付加価値をつけて、競争力を高めようとする傾向にあります。より特化したアプリケーションが用途となるため少量生産となり、コストを抑えるために90nmやそれ以前のプロセスを使用し、カスタムアナログとMEMSデバイスを同一チップ上に搭載します。また、少しでも汎用性を高めるために工場出荷時にプログラムが可能な小規模マイクロコントローラやデジタル信号処理回路を搭載する例もあります。6軸や9軸の複数センサからのデータをデジタル処理してセンサフュージョンを行い、オイラーベクトルを出力して加速度計、ジャイロ、磁力計などへと使途を広げようとする例もあります。

図2. タイヤ空気圧センサの設計事例図2. タイヤ空気圧センサの設計事例

ここで、IoTデバイスの設計事例として、図2.にあるタイヤ空気圧センサを取り上げます。環境発電と言われるエナジーハーベスティングをMEMSで実現し、電源を供給します。タイヤが回転すると、道路に面している部分が車の重みによりわずかに変形し、タイヤの振動となって電気エネルギーに変換されます。電気エネルギーはスーパーキャパシタなどに蓄積され、タイヤの空気圧を監視するシステムのセンサや電子機器の電源となります。圧力センサから得たデータは、空気圧が減った場合にはRFを介して運転者へのアラート情報として伝えられます。また、圧力センサから観測回数を計数することで、タイヤの走行距離を知ることも可能です。これを有効活用し、タイヤは「販売するもの」というビジネスから、「走行距離に合わせて課金するもの」へとビジネスモデルを多様化させることも想像に難しくありません。データから価値ある情報へ、どのように変換させるかはビジネス戦略を立てる上での大切な要素と言えます。

IoTデバイスの設計課題

このようなIoTデバイスの設計における主な課題は、上位レベルへの統合に関するもの — つまり、MEMS、アナログ、デジタルが混在した設計や、ドメイン混在のシステムシミュレーションです。さらに、シングルチップとして、高い歩留まりで製造ができることを確認する手法も重要となってきます。また、MEMSの動作モデルを、アナログやデジタル部分と合わせて全体シミュレーションを行うには、非電気ドメインであるMEMSを電気ドメインとして表現する必要があります。加えて、MEMS設計は通常3Dモデルとして設計が始まって3D解析を行うことから、そのモデルを2Dのマスク上でファブリケートし、設計通りに加工されていることを確認する手法が欠かせません。

Tanner EDAのソリューション

図3. Tanner EDAのIoT設計ソリューション図3. Tanner EDAのIoT設計ソリューション

2015年3月4日、メンター・グラフィックスはTanner EDAを買収しました。Tanner EDAが持つIoT設計ソリューションは、ダイ上に搭載するアナログ、デジタル、MEMSの設計を、トップダウン方式で行えるフルフローが特長です(図3.)。MEMS設計ツールでは、曲線サポート、全角度および曲線のDRC、3Dモデル作成、MEMS/ICコシミュレーションに加え、MEMSダイとASICダイのパッケージング協調設計がサポートされています。また、専門のファウンドリが提供するPDKを使用できます。

上流側フローのスケマティックキャプチャであるS-Editでは、セルごとに複数ビューを持たせることができ、アナログに対しては回路図を、デジタルに対してはRTLコードを、レイアウト後の寄生容量についてはSPICEネットリストを、MEMSの動作モデルとしてVerilog-Aを使用することが可能です。この混在設計のSPICEやVerilog-A部分をT-Spiceで、デジタル部分をModelSimでコシミュレーションすることで、協調検証が容易に実行できます。

図4. 下流フローのL-Edit図4. 下流フローのL-Edit

下流側のフローで使用するL-Editは、アナログおよびMEMSの物理レイアウトツールです(図4.)。MEMSに対する真の曲線をサポートし、また、スケマティックドリブンのレイアウトはもちろん、リアルタイムのDRCが搭載されています。

MEMSのモデル作成には、SoftMEMSを使用します。SoftMEMSにはL-Editが内蔵されており、2Dマスクレイアウトやファブリケーションのプロセス記述から3Dモデルを作成します。出力ファイルをFEM/BEMプログラムに送って3D解析することも可能です。つまり、MEMS設計は常に2Dを起点として、3Dモデル作成と解析というプロセスを繰り返すことで、確かに設計されたマスクレイアウトとMEMS設計とが合致するようになるのです。

まとめ

IoTは、半導体ビジネスを牽引する市場の仕組みとして大きな期待が寄せられています。特に日本が得意とする精密技術は有利に働くと見られていますが、多くの企業が参入する中、出荷数やコスト、用途や汎用性などをグローバルな視点に立ったマーケティング戦略が欠かせません。また、市場の動向を見極めながら、ニーズに見合う適切なMEMSやセンサを含む半導体の短期開発が可能なフルフローも欠かせません。Tanner EDA製品は、IoT開発環境としてすでに数多くの事例を成功に導いています。日本国内で期待されている医療分野でも、脳のインプラント機器、埋込み型バイオアイ、投薬管理向けの飲み込めるセンサ、絆創膏サイズの計測ユニットの開発など、高い実績を誇るフルフローを提供しています。