News and Views 2016 Winter / Vol. 16: IC設計&製造

車載半導体のISO 26262機能安全対応と信頼性に向けた取組み

はじめに

2014年に発行されたTHE HANSEN REPORTによると、2015年発売のメルセデス・ベンツSクラスに搭載されているECUの数は200個を超えているとされています。半導体業界にとって、カーエレクトロニクスが魅力的なアプリケーションであることは明白ですが、同時に、コンシューマエレクトロニクスとは異なるライフサイクルや機能安全など、自動車業界固有の要件に対応しなくてはならないという課題もあります。

カーエレクトロニクスの機能安全は、国際規格であるISO 26262によって、堅牢で信頼性の高い設計と検査を実施するためのフレームワークが提示されています。ISO 26262では、ASIL(Automotive Safety Integrity Level)という指標を用いて自動車に求められる機能安全をレベル分けし、「走る、止まる、曲がる」という基本機能の制御に用いられる半導体には、ISO 26262の中で最高レベルのASIL認証が必須となります。

一方、車載インフォテイメントやテレマティックス、コネクテッドカーを実現する半導体には、市場性やブランド認知の向上という観点から高い信頼性が求められます。また最近では、衝突防止やレーン追従などといったADASアプリケーションからの情報が、「走る、止まる、曲がる」を司る機能にも関わり始め、自動車の機能安全はセキュリティも含めて議論されるようになりました。このように、カーエレクトロニクスを支える半導体には、多岐にわたる車載アプリケーションにおいて、その安全要件と信頼性への対応が求められています。

半導体の信頼性

車載半導体の信頼性では、一般的な車両保有年数を13年とし、ばらつきを考慮して20年から25年を自動車のライフサイクルと想定しています。信頼性を考慮する際によく引き合いにされるのが、図1.のバスタブ曲線です。時間の経過とともに初期故障の領域を抜けると、バスタブの底である偶発故障の領域に入ります。この後に、半導体の耐用年数の近くになると磨耗故障の領域に移行し、故障率が高くなります。信頼性試験は、このバスタブ曲線に照らし合わせ、通常は15年分のライフサイクルに相当する加速度試験を行い、特性に影響がないことを確認することで信頼性の保証根拠としています。

図1. 信頼性のバスタブ曲線図1. 信頼性のバスタブ曲線

この実機試験の手法は、「実験対象は基本的に問題を引き起こさない」ということを確認するためのものです。しかし万が一、信頼性試験で問題が生じてしまった場合、あるいは市場において半導体の故障が原因でリコール対象となった場合には、その原因を解析し、設計、製造、テストの各工程にフィードバックして問題原因あるいは故障原因に対する対策を講じた再設計が必要になります。その上で、改めてデザインに対する信頼性試験を行わなくてはなりません。DFR(Design For Reliability)は、まさにこの問題を抑制することを目的としており、設計段階から信頼性を予測、検証する手法です。

信頼性の予測と検証

設計段階から信頼性に関して考慮すべき項目には、静電気放電(ESD: Electro Static Discharge)による破壊、電気的オーバーストレス(EOS: Electrical Over Stress)による破壊、ラッチアップなどへの対策とその検証などが含まれます。また、絶縁膜経時破壊(TDDB: Time Dependent Dielectric Breakdown)、負バイアス温度不安定性(NBTI: Negative Bias Temperature Instability)、ホットキャリア注入(HCI: Hot Carrier Injection)による劣化など、経時とともに発生する問題への対策とその検証も重要です。

メンター・グラフィックスが提供するCalibre PERCなどの信頼性検証ツールを用いると、従来からのDRC(Design Rule Check)、LVS(Layout Versus Schematic)、ERC(Electrical Rule Check)といった特定の回路問題を検証する手法から信頼性検証の対象範囲を拡大し、複合的に信頼性を検証できます。回路のトポロジとレイアウトの両方の観点から回路実装の解析を行い、外部制約を追加することで、規格に準拠していない回路を判別します。

図2. Calibre PERCを使用した電圧考慮DRCの流れ図2. Calibre PERCを使用した電圧考慮DRCの流れ
図3. Calibre PERCによる回路トポロジ検証とピン間寄生抵抗/電流密度検証図3. Calibre PERCによる回路トポロジ検証とピン間寄生抵抗/電流密度検証

ここで、配線のTDDBについて見てみます。この問題は、絶縁に必要な耐圧以下の電圧であっても、印加を継続することで、摩耗故障として絶縁破壊を引き起こす現象です。酸化膜に電圧が印加されて電流が流れることで欠陥が生成され、これが経時とともに増大し、欠陥と欠陥の距離が短いところでは電子移動が発生して電流パスができてしまう、というものです。TDDBに対する保護とその検証には、電圧を考慮したDRCおよびEOS環境での信頼性検証が重要になります。EOSでは、より大きな設計領域でいかに故障を回避するかが課題となります。

信頼性検証のほとんどは、半導体の耐用年数を超えた場合でも、求められる動作を継続できることを保証するものです。その検証にあたっては、2点間抵抗や電流密度、エレクトロマイグレーションのシミュレーションなどを実施します。ジュール発熱の大きなゲートの特定とリサイジングなども、信頼性を長期間保つために重要です。

まとめ

車載半導体の数は年々増えています。半導体の信頼性試験は、テストが通ることを前提に進められていることが多いのが実情であり、試験結果が思わしくない場合には、故障解析や設計、製造へのフィードバックに大きな労力を要します。市場競争において負のインパクトを与えかねないこの課題の克服には、設計の早期段階からの信頼性を考慮した設計手法が求められています。メンター・グラフィックスでは、そのためのソリューションとしてCalibre PERCを提案し、多くの車載半導体で実績を上げています。