News and Views 2014 Autumn / Vol. 11: ものづくり

コンカレントCFDの利点とセイコーエプソン株式会社の導入事例

コンカレントCFDによる効果的熱流体解析

CFD(数値流体力学)はもはや専門家だけの領域にとどまる技術ではありません。「コンカレントCFD」という新しい技術を適用した解析ソフトウェアにより熱伝達を非常に効率的に解析できることが分かってから、機械系エンジニアは、CFDの専門技術者に頼ることなく、自身のワークステーション上で重要な判断を迅速に下せるようになりました。MDA(Mechanical Design Automation: 機械設計自動化)、すなわち機械CAD(メカニカルCAD)環境に組み込まれた直感的なCFD解析プロセスを採用することにより、製品の設計検討段階で最適化し、結果的にメカ設計とシステム設計のすべての面で製造コストを削減することが可能になったのです。

従来、機械系エンジニアが設計したデザインをテストまたは検証する際には、物理プロトタイプを作成した上で試験装置を用いてテストを行ってきました。しかし、多大な労力を要するこの手法では、不完全な結果しか得られないことも多く、また実際とは別の環境で測定するという限界もあり、根本的な熱の作用をすべて理解し、特性を明らかにすることは困難でした。

CFDシミュレーションソフトウェア「FloEFD」

現在市場には、CATIA V5、Creo Elements/Pro、Siemens NXのような主要MDAツールセット内に熱伝達シミュレーションなどの流体解析機能一式を組み込む新しいスタイルの設計ツールが存在しています。中でも、メンター・グラフィックスが提供するFloEFDが実現する設計/解析技術は、特に機械系の設計エンジニア向けに開発されました。

CFDシミュレーションソフトウェアであるFloEFDは、ソリッドモデリングから、問題の設定、解決、結果の可視化、設計最適化とレポート生成に至るまで、解析の全工程を1つにパッケージ化することによって、熱伝達解析の包括的な環境を提供します。FloEFDを用いることで、製品の流体領域と固体領域の温度分布を詳細に解析できます。「what-if」シナリオを使用して、流体間や周囲の固体材料間の熱伝導、熱対流、共役熱伝達、ふく射、ジュール発熱をはじめとする多くの複雑な物理作用を解析し、その後、MDAツール内で設計形状を素早く変更して最適化します。

熱伝達を解析するときには、システムまたはデバイスの複雑な形状を捉えた計算グリッド、つまりメッシュを作成することが重要です。メッシュは複雑なCFD計算の中枢とも言え、デバイスの表面を小さな複数の長方形セルで表し、各セルを固体と流体のボリュームに分けて別々に解析します。その後、すべてのセルを含めて結果を合成します。

これまでCFDの専門技術者と機械系エンジニアを隔てていたものの1つがメッシュ生成のスキルでした。しかしFloEFDを使用すれば、メッシュは自動的に、しかもわずか数分で生成されます。またFloEFDでは、複雑な部分のセルサイズを小さくするアダプティブメッシュを作成して解析の精度を高め、複雑なモデル部分であってもより正確なシミュレーション結果を得ることができます。

FloEFDは、発熱や熱放散の状態を可視化できる豊富な機能を備え、設計に関わる貴重な判断材料が得られることから、より徹底して設計を精査することが可能です。FloEFDを使用すると、設計者は製品性能と機能性の向上に集中して取り組むことができます。今回のNews & Views onlineのものづくりトピックでは、FloEFDを用いて設計現場に熱解析を浸透させ、開発期間短縮と開発コスト抑制を実現したセイコーエプソン株式会社様(以下セイコーエプソン)の事例をご紹介します。

図1. 設計品質向上に欠かせない熱解析シミュレーション図1. 設計品質向上に欠かせない熱解析シミュレーション
図2. 冷却風の通路変更時の効果を確認図2. 冷却風の通路変更時の効果を確認

セイコーエプソン株式会社の事例

セイコーエプソンは、1989年、液晶プロジェクタを世界で初めて発売して以来、ビジネスシーンや教育現場、個人使用用途など、多種多様なニーズに合わせた豊富なラインアップのプロジェクタを提供し続けています。電源やランプなど複数の熱源を筐体内に抱えるプロジェクタは、相当な高温になります。プロジェクタの照度や輝度は年々明るくなり、またその本体サイズは商談時に携帯できるくらいコンパクトになりましたが、小型化していく過程では、形状がそれまでのプロジェクタと変わっていくため、基板の配置から作り直していく必要があります。

また、最新のプロジェクタは、無線LANを搭載し、スマートフォンから映像を飛ばすこともできます。高機能、小型化するにつれ、熱対策はより難しくなり、プロジェクタの開発は熱との戦いの歴史です。熱対策については、小型化によって熱の逃げ道がピンポイントになっていくため、もはや設計者の経験や勘だけでは対応できません。冷却が必要な場所はたくさんありますが、温度センサの本数は増え、コスト増を避ける工夫が必須です。

セイコーエプソンでは、熱対策として、1990年代からエプソンブランド全製品を対象に、解析の専門家チームがシミュレーションを行ってきました。しかし、近年では解決すべき技術的条件が厳しくなる一方、開発コストの抑制と開発期間短縮が要求され、それらの課題に対応するために、2007年からはプロジェクタ専門の解析チームが事業所内に設けられました。その後も開発スピードは増し、開発の早い段階で高い性能を出さなければならず、専門家チームによる解析を待っての設計では必要要件に追いつかなくなったことから、設計者自身が解析を行いながら設計を進めることを目的に、2009年、FloEFD for Creoが導入されました。

熱解析ソフト選定の要点

設計現場への解析ソフトウェア導入で重視されたのは、初心者であるか熟練者であるかにかかわらず、プロジェクトメンバー全員が容易に使えるものであることでした。製品の採用に当たり、FloEFD for Creoの以下の3つの点が評価されました。

図3. 機種全体の冷却風の流れ状態を確認図3. 機種全体の冷却風の流れ状態を確認

1点目は、シミュレーションの経験がない設計者であっても簡単に扱えることです。シミュレーションソフトウェアのハードルの高さの理由の1つはメッシュ切りですが、FloEFD for Creoでは、解析したい3次元データがあれば、解析したい範囲を指定するだけで自動的にメッシュを切ることができます。また、ウィザードに従って項目を選択しながら繰り返し使用していくことで、ワークフローを自然に覚えられるようにできています。この使い勝手の良さから、「また使おう、と思わせてくれるようになった」との評価もいただいています。

2点目は、セイコーエプソンが採用しているCADツールであるCreo Parametric(Pro/ENGINEER)との統合型のソフトウェアであるという点です。それまでに設計してきた3次元データをそのまま使用して解析が行えることに加え、設計しているCAD上の同じ画面で解析できるので、設計しながら仮想のタイプを次々と検証し、設計に反映していくことができます。FloEFD for Creo はCADに搭載された1機能のように動作するため操作に違和感がなく、設計環境とは別に異なるソフトウェアを立ち上げるという面倒さもありません。

3点目に挙げられるのが、ライブラリの豊富さです。全世界レベルのデータベースを持っており、特にFloTHERMのデータベースが利用できる利点があります。

図4. FloEFD for Creo計算メッシュの最適化図4. FloEFD for Creo計算メッシュの最適化
図5. セイコーエプソン株式会社豊科事業所ビジュアルプロダクツ事業部 VI企画設計部図5. セイコーエプソン株式会社 豊科事業所 ビジュアルプロダクツ事業部 VI企画設計部

設計現場への導入と熟練者の反応

セイコーエプソンでのFloEFDの導入は、まず試用を目的とした1本のライセンス購入から始まりました。試用過程での評判が良かったためソフトウェアの使用希望者が増えたことから導入本数も増え、設計現場への浸透が実現されました。

シミュレーションの結果が予想と乖離しているときには習熟した解析者に相談できる仕組みも構築しました。これにより、予期せぬ事態が生じた際にも次の手を見つけることができ、習熟スピードを早めることができました。マニュアル作りに関しては、ランプなどの解析対象別に、流体解析全体の使い方を、初心者でもマニュアルを参照すれば使えるような内容で作る工夫を施しています。

セイコーエプソンが20年ほど継続して行ってきた解析の中でも熱流体解析は難しいものです。FloEFD for Creoは「あ、こんなに簡単にできるの!?」と熟練者の方にも嬉しい驚きをもたらした解析ソフトウェアです。ハイエンドの解析ソフトウェアを使用する場合、流体力学をそのまま再現したようなメッシュ切りをするのですが、FloEFD for Creoは8段階あるメッシュのどのメッシュを使うかを設定するだけで使用できるからです。設計者が自分の直感が正しいと認識している場合でも、解析してみると違うということもあります。FloEFDは、解析により設計が正しく行われるように導き、軌道を修正します。

セイコーエプソンは、メンター・グラフィックスの熱流体測定製品の国内代理店である構造計画研究所からFloEFD for Creoを購入、導入しています。構造計画研究所は建築物の設計事務所として発足し、日本で初めて建築の構造設計に解析ソフトウェアを利用した革新的な企業です。セイコーエプソンは、1993年から20余年にわたり、設計への解析ソフトウェア利用に関して深い造詣とノウハウの蓄積がある同社からのサポートを受けています。

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