News and Views 2016 Spring / Vol. 17: ものづくり

プリント基板実装現場における「製造のインターネット化」を実現するオープン標準、OML

はじめに

製造工程を洗練する次世代の「ものづくり」を目指し、ドイツでは政府を中心にインダストリー4.0やその概念を具現化するスマートファクトリーが提唱され、米国ではIIC(Industrial Internet Consortium)がIoTの産業実装に向けた取り組みを行っています。奇しくも時を同じくしてIoTの実用活路が広がり、製造現場に革命をもたらす旗手としての期待が高まっていました。

そのような状況が取り巻くなかにあって、他の製造業界と同様に、プリント基板(PCB)業界においても、装置同士や実装フロアと工場のIT化ソリューションとの双方向の詳細通信を網羅する堅牢で包括的なリアルタイム通信標準を希求する声が高まっていました。このニーズに応えるべく開発されたのがOML、Open Manufacturing Languageです。

OMLとは?

「PCB実装に特化した製造のインターネット化(IoM)のベースとなる標準言語」を強く求めるPCB業界の声に呼応して開発されたOMLは、既存手法とは異なり、双方向のデータフローを特長とし、単一の標準フォーマット、言語、プロトコルで実装フロアのデータ収集や工程制御をサポートします。

図1. 15年以上蓄積されたPCB実装フロア通信におけるノウハウを集約して開発されたOML図1. 15年以上蓄積されたPCB実装フロア通信におけるノウハウを集約して開発されたOML

PCBの実装フロアでは、製造工程からリアルタイムで収集した情報を、有限性を考慮した製造計画、「無駄のない(リーン)」部材管理、品質管理、部材と製造の完全なトレーサビリティなどといったソリューションに適用します。メンター・グラフィックスの15年以上に及ぶPCB実装フロア通信における経験やノウハウに基づいて開発されたOMLは、SMT装置、自動検査、テスト、修理、実装、リワークなどPCB実装工程の相互接続を定義し、倉庫、エンジニアリング、品質管理、ビジネスインテリジェンス、企業/社内/全社ITシステムおよびコンピュータ化のソリューションまで広範にわたるPCB実装工程すべてに価値をもたらします。OMLは、従来のベンダ依存の不規則な独自プロトコルに替わるオープンな標準言語であり、製造のインターネット化、インダストリー4.0、スマートファクトリー1.0のコンセプトの実用化、工程飛ばしやコンプライアンス遵守のチェックを含む完全なトレーサビリティデータの自動収集など、業界特有のさまざまなニーズや課題に対応します。

OMLは、依存性を排除した情報としてデータ交換できるように製造プロセスを階層化します。製造プロセスの性能、部材の段取りと消費量、トレーサビリティ、工程結果とパラメータ、工程制御(ポカヨケ)、テスト/検査/修理工程の品質情報など、自動か手動を問わず実装フロアで発生したあらゆるイベントの詳細情報を網羅し、従来フォーマットでは対応できなかったさまざまな課題を解決へと導きます。

導入のしやすさも、OMLの特長の1つです。高い付加価値を提供するOMLを使用するには、OMLデータの作成者とユーザが単一の標準インタフェースを開発、共有するだけで済むため、新技術導入時にありがちな新規参入障壁が排除されます。OML誕生前の多くの異なるインタフェースの開発が必要とされた状況とは異なり、OMLを導入すると、高度な製造コンピュータ化などといったPCB実装フロアプロジェクトの開発コストとリードタイムが大幅に低減され、効率は改善し、メーカーは顧客需要を満たすことができます。業界の期待に応え、真の製造のインターネット化環境が実現できるように、OMLはコミュニティによって継続的に開発されています。

OML導入のメリット

OEMの場合
OEMは、実装フロアの個々のオペレーションに焦点を当てた改善活動を継続的に行い、社内製造にするかEMSから購入するかで採算のバランスをとっています。OEMにとっての成功の鍵は、オペレーションの競争力を維持することにあります。社内製造には、設計から製造までの垂直的な管理とオペレーション構成が可能という利点があり、製造能力に合わせて設計を最適化できます。また逆に、製造の製品ニーズに合わせた段取り、最適化も可能です。一般的なサプライチェーンやエンジニアリングフローでは、各サイトで扱う製品の種類や数の増減に対してどのような生産計画を立てるか、ロットサイズ縮小で頻発するSMT装置の段取り替え対応にどのような部材フローを構築するかが検討材料となります。

ブランド力の維持に向け、OEMは、生産性、部材の回転率、品質管理という3つの目標を達成しなければなりません。それぞれの目標指数は、実装フロアから収集したデータを基に管理、改善されています。目標達成に向けて実装工程を効果的に計画、モデル化、スケジュールするには、現在の実装完了ステータスや性能の測定値を正確に把握する必要があります。

一連の作業指示書に必要なフルキットの部材を、実装フロアの個々のラインへ倉庫から「プッシュ」する従来手法では、多品種の環境は管理し切れません。一方、実際の部材の消費量と破損量に基づいて倉庫から部材を「プル」する手法を導入すると、実装フロアや倉庫に不要な部材を積んでおく必要性が解消されます。また、ERPでも在庫を可視化して精度高く管理でき、社内における余剰部材を削減できます。さらに、テストの結果や修理の問題をすぐに確認できるため、能動的な品質管理が可能になります。

こうした「プル」手法によるイニシアチブの基本は、情報がすべてです。一部の情報は一般的な生産性解析や部材管理、品質管理といった目的のためにも並行利用されます。従来のやり方では、バラバラな基準、プロトコル、手法で、情報が場当たり的に収集されてきました。その結果遅延が生じ、データオペレータや製造オペレータの作業負荷が膨大なものに膨れ上がりました。しかしOMLを使用すると、あらゆるデータを収集し、それらを単一の標準データに変換できるようになります。このデータは、製造、エンジニアリング、IT「ビッグデータ」システム間で容易にやり取りできるため、製造オペレーションの制御や管理、性能が改善されます。

EMSの場合
EMS(Electronics Manufacturing Service)の観点は、OEMとは少し異なります。EMSの優先事項は費用対効果 — つまり、顧客製品の製造ラインを最低限のコストとリスクで動かすことにあり、サイト単位ではなく、ライン単位の効率を重視します。各ラインで製造する単一または少量製品にかかる不要コストの削減が求められるため、ラインのSMTプログラム効率、ラインバランス、テスト時間、初回歩留まりなどの生産性や能力指数が重要なメトリクスになります。

SMT装置や関連装置の複雑化が進み、「オペレータが装置やラインを目視して非効率かどうか確認する」手法は、もはや時代遅れと言わざるを得ません。装置内のさまざまな要素が多様なモジュール、ヘッド、レーンと相互作用しており、1つのオペレーションで問題が発生すると、それ以外の装置やラインにも「カオス理論」の影響が及びます。オペレーションの信頼性を改善する工程調整が必要になり、検査装置を使って実装オペレーション性能を評価できる高度にコンピュータ化されたソリューションが求められています。

EMSが求めるのは、ラインの初回歩留まりと生産性の向上です。しかしそれを助けるソリューションは、ベンダが提供する装置に付属することが一般的で、通信機能もバラバラです。しかしOMLを使用すると、あらゆる装置が単一言語と通信バックボーンを共有します。ラインごとの高度なコンピュータ化と工場全体のIT化を実現し、顧客向けに最適化された製造ラインを管理、制御し、製造コストを測定してビジネス戦略を改善することが可能になります。

装置ベンダ
最後に、装置ベンダの観点から見てみましょう。自動製造工程から収集されるデータの存在はかなり以前から知られており、ユーザは装置ベンダに対し有用データの提供を求めてきました。しかし、個々のベンダが提供する装置はそれぞれ独自のプラットフォームで動き、通信技術や方式が異なります。そのため、多様な情報を適切な形で提供して欲しいという要求が高まるなか、単に情報だけでなくソリューションとして提供しなくてはならないという大きな重圧が、装置ベンダにかかっていました。

図2. OMLがもたらす価値図2. OMLがもたらす価値

アドホック的なソリューションは、パートナーシップで結ばれたベンダ間には利点がありますが、その他のベンダはそのメリットを享受できず、除外されてしまいます。しかしOMLを導入すると、あらゆるベンダがデータとソリューションを共通のデータ形式で作成でき、最低限の工数、コスト、時間で顧客の要求に応えることが可能になります。

OMLは今日の工場にどのように適合するか?

製造のインターネット化を実現するOMLは、さまざまな種類、コンテンツのデータを定義します。共通の通信基幹インフラを提供し、実装フロア最下位の工程から最上位の全社ITシステム、製造支援インフラまで、工場全体に適用できます。OMLを導入すると、ITシステムと工場の設備、工程の統合が容易になり、信頼性の高いリアルタイムデータを使用できることから、ビジネス面での最大の障壁 — 個々の社内システム専用のインタフェースを開発してサポートする費用が不要になります。

OML最大の特長は、データ収集と工程間やシステム間での双方向データ交換だけでなく、コンピュータシステムの命令を通じてあらゆるラインや工程を制御できる点にあります。つまりOMLを採用すると、実装フロアを自動制御で「微調整」し、予期せぬ変更に対応しながら、生産性と品質を最大限に高めることが可能になります。サイトの製造データをクラウド経由でエクスポートして他サイトのデータと統合し、製造全体の健全性を継続的に監視できます。

OMLは、オペレーションのリスクを最小限に抑えながら、ソフトウェアソリューションやシステム統合の開発者にも大きなメリットをもたらします。配置前の新規アプリケーションコードをオフラインで開発、シミュレーションすることも可能です。OMLのデータモジュールを改変する場合には、既存基準と照らし合わせて開発、テストして、メインバックボーンに統合する前に設計問題を完全に解決できます。このため、開発リードタイムとオペレーションダウンタイムを大きく短縮します。

同一の製造工程データを複数の目的で使用する環境では、OMLの導入により、データ使用の競合を回避し、データの合理化も実現します。OMLはすべてのシステムに共通のデータ言語を提供するため、個別のシステムや装置に合わせた変更が不要になり、開発統合に伴う問題発生リスクも低減します。また、あらゆるユーザが、同じ形式に則って正規表現されたデータを同じように閲覧できます。さまざまな領域のオペレーションで発生する問題や要件を共有できるため、オペレーション上の競合も避けられます。さらにOMLは、顧客情報やビジネス固有のデータ要素などといった、オープンに開示できない機密データの保護もサポートします。

図3. Valor IoT Manufacturingデバイス図3. Valor IoT Manufacturingデバイス

まとめ

メンター・グラフィックスは、OMLに基づき実装フロアのあらゆる装置や工程から実データを収集する堅牢なハードウェアデバイスとなるValor IoT Manufacturingを発表しています(図3.)。本製品は内蔵インタフェースを介して、SMT(表面実装)、スクリーンプリンタ、リフローオーブン、検査装置、テスト装置などを含む 製造フロー全体はもちろん、システム実装、テスト、修理などの手動工程からもデータを収集し、正規化すると同時に、装置と製造フローを制御するOMLを用いた簡潔な標準的手法も提供します。MES、ERP、サプライチェーン、PLMなどのエンタープライズアプリケーションにValor IoT Manufacturingを接続すると、ショップフロア向けITプロジェクト展開を加速できます。

OMLは、メンター・グラフィックスが蓄積してきたPCB実装フロア通信における確かな経験とノウハウに基づいて開発されたオープンな標準言語で、オープンコミュニティであるOML Communityを通じて誰でも利用可能ですこのコミュニティでは、サポートの提供やリビジョンの管理を行います。

これを機会に、OML Communityに参加しませんか?