News and Views 2016 Spring / Vol. 17: Info Topics

Yesterday to Future – EDAベンダとしての歩みを紐解く

ヒップホップを中心に常に新しいサウンドスタイルでオーディエンスに刺激を与え続けるユニットBlack Eyed Peasは、日本にもその支持者は多く、昨年結成20周年を迎えた記念ともいうべき新曲「Yesterday」は、幅広いジャンルの音楽ファンから絶賛されました。この曲は、彼らが影響を受けた音源を次々とサンプリングしながらユニット自体の色に染めていくスタイルをとっています。約5分30秒の曲の中に、ヒップホップの歴史と期待感がギュッと凝縮されています。興味のある方は、ぜひ聴いてみてください。今回のInfo Topicsでは、Black Eyed Peasに倣う訳ではありませんが、メンター・グラフィックスの歴史について、少し紐解いてみたいと思います。

図1. 1982年に発表したIDEA Station図1. 1982年に発表したIDEA Station
図2. 1991年発行Electronic Design Magazineに掲載された「未来の車」図2. 1991年発行Electronic Design Magazineに掲載された「未来の車」

電子システム設計の「メンター(助言者)」となることを目指して設立されたメンター・グラフィックスは、設立翌年となる1982年には、当時画期的となるICとプリント基板(PCB)をグラフィカルに分かりやすく設計するためのEDAツールを立ち上げました。(図1.)EDAという分野そのものを創始したメンター・グラフィックスは、米国内各地に続々と営業拠点を構えただけでなく、1983年には英国、日本においてもオフィスを設立しました。

当時はワークステーションを導入し保守することにも大きな労力を要することから、Apolloのワークステーションと回路図入力やシミュレーション環境を一貫してサポートする体制が取られていました。メンター・グラフィックス・ジャパンの社員も、日本国内においてAegisやDomain OSというOSのインストールからプリンタ、ネットワーク設定に至るまで幅広く支援をしていました。

1980年台のメンター・グラフィックスのお客様は、半導体、コンピュータ、通信、民生、防衛、運輸と多岐の分野にわたっていました。メンター・グラフィックスはそれぞれの市場分野の成長を維持すべく、さまざまな市場の調査を行い、その成長を予測していました。その中で特に注目したのは、自動車業界における電気電子設計ドメインの成長でした。マイクロコントローラを含むECUの年平均成長率は18%と高く、それに伴って複数のECUから構成されるシステムとその接続となるワイヤ・ハーネスも、複雑度が極まるであろうと予測したのです。(図2.)

オートモーティブというシステムに投資することは悪いことではないと踏んだメンター・グラフィックスは、1991年後半に、自動車のワイヤ・ハーネス設計に特化したCable Stationを開発、リリースしました。ICやPCBの分野に論理設計、物理設計、製造という領域があるように、ワイヤ・ハーネスにも論理設計、物理設計、製造という3つの柱による枠組みが、1993年までにはメンター・グラフィックスのソリューションとして形成されていました。現在多くの自動車会社で採用されているCapitalは、企画から設計、製造、保守サービスに至るまでを、共通データベースにより一元化しています。 最近では、「ゼネラルモーターズの車両開発サイクルタイムを短縮し、効率性を向上」というプレスリリースも発表しています。

時を同じくして、メンター・グラフィックスはまったく異なる分野への投資を始めました。組込みシステムを構成する組込みソフトウェア分野への投資として、1996年には業界初の商用リアルタイムOS(RTOS)を開発したMicrotec Research Inc.を、2002年にはロイヤリティ不要でソースコードとしてRTOSを提供する画期的なビジネスモデルを打ち出したAccelerated Technology, Inc.を買収し、確実に組込みソフトウェア市場へとビジネスを拡大していきました。(図3.)

図3. Accelerated Technology, Inc.を買収した当時のバナー広告図3. Accelerated Technology, Inc.を買収した当時のバナー広告

その当時から、メンター・グラフィックスのお客様も、ICやPCBだけでは提供できない付加価値が、組込みソフトウェアによって実現できることを知っていました。そのようなお客様との協業によって養われたシステム指向の思想こそ、その後のメンター・グラフィックスの精神の礎になっているように思います。2009年にはEmbedded Alley Solutions, Inc.の買収によって組込みLinux®市場へと参入し、2010年にはCodeSourcery, Inc.の買収により、現在主流となっているオープンソースベースの組込みシステム開発ツール群を強化しました。その後もMontaVista LLC.のオートモーティブ資産やXS Embedded GmbHを買収し、車載向け商用Linuxプロバイダの第一人者として、クルマづくりを支援しています。2012年には「GENIVI 2.0仕様準拠のIVIプラットフォーム」を発表し、Robert Bosch Car Multimedia GmbHと株式会社デンソーの合弁会社として発足した株式会社Advanced Driver Information Technology(ADIT)のパートナーに選ばれています。

時間が前後しますが、2005年にはVolcano Communications Technologies ABを買収し、車載ネットワークの開発支援やAUTOSARベースの組込みソフトウェア開発支援にも取組んでいます。2012年には、「メンター・グラフィックスのVolcano Network Architectが、マツダ株式会社のネットワーク帯域幅使用率の検証と向上に採用」というプレスリリースを、2015年には「アイシン、メンター・グラフィックスのVolcano AUTOSAR設計ソリューションを標準プラットフォームとして採用」というプレスリリースを発表しています。

別の技術分野への投資としては、2008年にFlomerics Ltd.を買収し、熱流体解析分野に参入しました。ICやPCBの高性能化、高集積化が著しいなか、熱は避けて通れない問題です。さらに、パワーデバイスはCO2の課題にチャレンジするエネルギー産業を始め、ハイブリッド車や電気自動車でも多く採用されており、メンター・グラフィックスにおけるオートモーティブソリューションの一翼を担っています。本News & Views onlineでも「トヨタ自動車のハイブリッド革命」や「ヤマハ発動機における信頼性評価技術構築に向けた取り組み」で取り上げさせていただいています。

さて、Black Eyed PeasのYesterdayの歌詞に、「I took you back to yesterday and now I'm taking you to the future」とあります。これまで駆け足ですが、メンター・グラフィックスの歴史と技術や市場に対する投資についてご紹介してきました。しかし、現時点までに起きたことはその瞬間が過ぎてしまえば過去のものとなり、昨日(Yesterday)は振り返ることしかできません。技術は常に進化し続けるもの、私達を取り巻く環境も日々変化しています。そんな変化に埋没することなく、むしろ自分の基本となる軸をしっかりと押さえて未来の変化に対応したいものだと、ふと思いました。そして「EDAのテクノロジリーダー」であるメンター・グラフィックスも、技術の潮流の変化を見極め、常にお客様に対する最先端の製品やサービスを提供できる「メンター」であり続けたいと、願った次第です。

乱筆にて。

(ゆり)